エルの楽園

Twitterで垂れ流すには見苦しい長文を置きます。 あ、はてな女子です。

国債をもっと発行すれば生活が良くなるのか?

本記事では「国債をもっとバンバン発行すれば生活が良くなるのか?」という問いをデータで検証します。
このような主張をするひとたちはMMT派などと呼ばれることがあり、賛成と反対が入り乱れておりますが、ここではそれぞれの理論の詳細には立ち入りません。

さて先に結論ですが、答えは「Yes」です。
ただそこにたどり着くまでに色々と前提条件や筋道があるので、以下は長文で恐れ入りますがどうぞお時間のある方はお付き合いください。

そもそも、今なんで生活が苦しいの?

普通に生きている市民一人一人の経済状況がどういう具合なのかを見るのに、GDPやインフレ率、円高/円安といった指標はあまり直感的ではありません。一番分かりやすいのはズバリ「手取り」でしょう。税引き後所得である可処分所得==手取りの金額こそが日々の生活に直結する指標かと思います。
という訳で、国民生活基礎調査より1996年からの1世帯あたり平均可処分所得の推移を確認します。なお、国民生活基礎調査で言う「可処分所得」の定義は以下の通りです。

可処分所得」とは、所得から所得税、住民税、社会保険料、固定資産税・都市計画税及び自動車税等を差し引いたものであり、「所得」はいわゆる税込みで、「可処分所得」は手取り収入に相当する。

所得・可処分所得共に下がっています。わたしたちの大半は給与所得を主な生活の糧としているので、所得の低下は賃金の低下が原因であると考えられます。
1996年には545.4万円だった可処分所得が、2019年には417.7万円に下がっています。23年間で手取り金額は127.7万円も下がっている訳ですね、これは生活が苦しいはずです。可処分所得のみが下がったのであれば税金や社会保険料が上がったのかも?とも思えるのですが、所得そのものが下がっている以上、原因の一つは賃金の減額であることは間違いなさそうです。念のため、所得から差し引かれている税金・社会保険料等の割合を計算してみます。

あっ、ちょっと待ってください。改めて可処分所得の定義を見ますと、所得から差し引かれているのは「所得税、住民税、社会保険料、固定資産税・都市計画税及び自動車税等」とあります。我々が日々支払う消費税が含まれていませんので、その分を補正します。1世帯の平均人数は1996年から現在まで大体3人前後ですが、3人家族がこの手取りでロクな貯金ができるとは考えづらいので、全額を消費に回すものとして再度可処分所得の計算を行います。また、この補正後の可処分所得を用いて税金・社会保険料等の差引率を計算します。

補正後の可処分所得はなんと2019年で384.3万円、税金・社会保険料等で持っていかれる率は30%を超えます。これで3人家族が老親を介護し老後に備えて貯金し子を産み育てよと言うのでしょうか?正直、言葉もない数字です。

ここまでの検証で、生活が苦しくなっている理由が2つ分かりました。

  • 賃金が下がっている
  • 税金・社会保険料等が上がっている

です。

手取りを上げるために、国家には何ができるのか?

まず税金・社会保険料について考えます。これは国家が直接に操作できるので、政府の意向次第ですぐに減額できます。もし一切の税金・社会保険料が0になった場合、2019年の可処分所得は552.3万円まで上がります。大分マシに見えますね。
ただし、そもそも1996年の可処分所得が545.4万円と高々6万円の差しかないことを考えると、あまり本質的な解決には見えません。それに一切の税金・社会保険料が0というのもなんだか非現実的*1に思えます。

やはり本質的な原因は賃金が下がったことにあるように思えますので、次に賃上げについて考えます。賃金が下がった原因は色々ある*2かと思いますが、ここでは原因よりも国家が打てる具体的施策に注目します。
賃金は原則として各雇用主が自由に決めるので、国家が直接に全員の賃金を操作できる訳ではありません。ただし、国家は自ら雇っている労働者、つまり公務員の賃金を上げることはできます。また、公共事業という形で間接的にひとを雇用する道もあります。日本中にいる失業者や劣悪な待遇で働いている労働者の全員を国家が適正な待遇で雇用すれば、国家主導での賃上げを行えます。劣悪な待遇だと人材を国家にとられてしまうとなれば、民間企業も待遇改善へのインセンティブが上がると思われます。
幸い公務員が行うべき仕事はたくさんあります。官僚は連日長時間労働していますしあちこちのインフラは老朽化しており、保育士や介護士、学校の教職員なども足りていません。こうした国家による大規模雇用はニューディール政策として歴史上の例があり、あながち突飛な考えではありません。詳しくは以下の本をご覧ください。
経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

具体的にいくら必要?どう確保する?

ではこうした賃上げを行うために、具体的にどの程度のお金が必要なのでしょうか。冒頭のtweetにある通り、1996年から毎年2%程度の自然な所得増加が起きていれば今頃我々の手取りは834.2万円、額面に直すと1121万円だったはずでした。しかし今となってはこの金額も夢物語です。もっと現実的な金額として、仮に一世帯あたり450万円という可処分所得を想定します。たとえ一人暮らしでもこのくらいは欲しいですよね。
2019年現在、日本には約51,785,000世帯あります。このうち、可処分所得が450万円を下回る世帯は23,215,216世帯です。内訳を以下のグラフに示します。

これらの世帯が可処分所得450万円を上回るよう給与を支給した場合、総額は約135兆8090億円になります。

135兆8090億円?!
ええと、日本の令和4年度国家予算が107兆6,000億円だから……それ以上ですね。

135兆8090億円という金額を税金で賄おうとするのは到底無理です。国債で何とかする以外道はありません。
ちなみにアメリカの国債発行高は日本円換算で約3692兆円、国民一人当たり1,112,041円です。一方で日本の国債発行高は236兆円、国民一人当たり188,513円です。こうして見ると国債をもう136兆円追加する程度なら全然大丈夫っぽく思えますね。まぁ日本を含む多くの国では別に国債のお金を"返さなくてもいい"ので、負債云々は別に問題ではないんですが……

改めて結論

という訳で、最初の問「国債をもっと発行すれば生活が良くなるのか?」の答えは
「Yes。追加で約136兆円分を発行し、その分を雇用増強に割り振れば生活がよくなる」です。

さて、こういう結論をつけると「ハイパーインフレや深刻な円安、大恐慌を招く!国が滅びるぞ!」という反論がありそうですが、それに対する現時点でのわたしの答えは
「真面目に働く人間をマトモな待遇で雇うだけでなぜハイパーインフレが起きるのか分からない。そんなことにはならないと思うが、もし万が一本当にそれで滅びるような国であれば、滅びて頂いて結構」
です。

ハイパーインフレだかなんだか知らないですが、普通に働いて生活できる賃金を得てはいけないのでしょうか?まだ見ぬインフレのために、いつまでも明日をも知れぬ生活に耐えなければいけないのでしょうか?しかも年を追うごとに手取りは減っているのに、インフレになる??全然分からないです。

本ブログでは令和の所得倍増計画を応援しています。誰が実行してくれることになるのかは分からないですが;P

*1:大幅減税を唱えているMMT派ですら、インフレ抑制手段としての徴税には賛成しています。インフレは理論上起こり得るものであり、最低限の課税による徴税機構の維持は必要と考えます。

*2:ちなみに「失業率が改善した結果短時間の雇用者が増え、その結果賃金の平均が下がった」という見方がありますが、それは国民生活時間調査の結果より否定されます。同調査によれば労働時間はむしろ伸びています。