2時間で書ける!職務記述書の作成方法
タイトルは釣(ry
このエントリで「職務記述書(Job description)を書こうよ!」という話をしたところ、割と多くの方から
「職務記述書って何、初めて聞いた。どうやって書くの……?」
「全員の合意を取るなんて無理ゲーじゃん、意見調整どうするの?」
などというご質問をいただいたので、本稿では職務記述書をチームメンバー全員でよってたかってざっくり書く方法を解説します*1。さすがに純粋に2時間だけできっちりした職務記述書のすべてを書いてしまうという訳にはいかないですが、この方法を使えば一番難関のスキルセット一覧を書き出す作業が短時間でできますし、全員を一度に拘束するのも2時間くらいで済むかと思います。
このやり方が向くのは以下のようなケースです;
- 初めて職務記述書を書くけれど、どうすればいいかまったく見当がつかない
- そこまで厳密なものでなくても構わないけれど、今後の話し合いのための叩き台が欲しい
- 今後の採用や人材育成の方針について関係者の意見を聞きたいけれど、とっかかりが解らない
用意するもの
- 職務記述書の作成に関わってほしい人々(10人未満がやりやすいです)
- 職務記述書の作成に当たって音頭を取る特定個人(多分あなたです!)
- 会議室
- 大判サイズの付箋 ×3色 ×人数分
大体このくらいのサイズがあれば十分かと思います。
- サインペン
- ホワイトボード×3面、あるいは模造紙3~6枚
- ホワイトボード用のペン、あるいはマジック
- 上長、あるいはチームリーダーの同意
下準備
これは職務記述書を実際に書き始める2、3営業日前の朝にやるのが一番いいかと思います。
作成に参加してもらうメンバー全員に、職務記述書とはいったいなんであるか、何のためにこれを作るのかを説明し、理解してもらいます。
- 採用のため
- 今後の人材育成のため
- 他部署との円滑な連携のため
などなど、職務記述書を作成する理由はそれぞれあるはずです。自分の状況に合った理由を説明します。
そして全員に3色の付箋を配布し、
- この業務を担当するにあたって、新人研修が終わるまでに習得できていなければ即日で死ぬような大前提となる必須の知識・技能
- 配属直後にはなくても構わないけれど、早いところこれを習得しておいてもらわないとちょっと一人前という訳にはいかないんじゃない?という知識・技能
- 今後習得できれば実に素晴らしい、重要な戦力になれるような知識・技能
上記の1~3に付箋の色を割り当てます。そして1つの付箋に1つの知識・技能をサインペンで大きな文字で書いてもらうとして、それぞれにつき一人当たり5枚以上20枚以内*2を書いてもらうようお願いします。また付箋を書いてもらうにあたって、メンバー間での相談や意見のすり合わせはしないよう注意します。あくまで個人の考えに基づき、普段の業務の中で気づいたものをなんでも書いてもらいます。
ここで書く知識・技能は断片的でも構わないので、あんまり抽象度を上げないようにします。例えばグラフィックデザイナーであれば
「解像度について理解している」
と書くよりかは
「印刷物の入稿データに72dpiの画像を貼り込まない」
と書いた方がより良いです。日頃の恨みを込めて書き殴りましょう。
また、各付箋に誰が書いたかを示す記名は必要ありません。無記名でやります。
本番
職務記述書の作成はブレインストーミング-簡易KJ法形式で行います。ブレインストーミングを全然やったことがない、という場合は、以下のエントリが簡潔で参考になります。
効果的なブレインストーミング。あなたのクリエイティビティを限界まで引き出す方法 - shi3zの長文日記
実際に全員で職務記述書の作成に入る日の朝に、全員から付箋を回収し、あらかじめざっと目を通しておきます。そしてブレストが始まる直前のタイミングでそれらの付箋をホワイトボードか模造紙に貼り、1~3の各カテゴリごとに似た内容の付箋をまとめ、各グループに見出しをつけておきます。
どのようにまとめるかはとりあえずフィーリングで適切に決めます。例えば「印刷用データはCMYKで作成する」と「印刷用データにGIF画像を貼り込まない」は「カラーモードについての知識」とまとめられるかもしれません。また後者は「WEBサイト用に納品する素材は.psdのままではなく必ずWEB用画像に書き出す」と組み合わせて「ファイル形式の知識」とまとめられるかもしれません。
そして会議室に集まったメンバーにその付箋の集合体を見てもらい、まずは自由に30分間、雑談ベースで意見を述べてもらいます。この段階で付箋の移動やまとめ直しなどが発生する場合もあります。どんどんやりましょう。
次に10分間、その結果を踏まえて全員に再度付箋を書いてもらいます。この時も相互に相談などをせず、黙々と書いてもらいます。この段階でおそらく付箋に書かれる内容にはある程度の抽象化が発生しているはずです。
最初に付箋の束を貼ったホワイトボード、あるいは模造紙を崩さないように一旦撤去し、新しい真っ白なホワイトボードに再度新しく書いてもらった付箋を貼り、グルーピングします。この時、各付箋のグループの重要度を意識してグループを置く位置を決めます(例えば「解像度の知識」より「カラーモードの知識」の方が重要、など)。やはり30分間の時間をとり、全員で意見を出し合いながら配置を決定します。
この段階で全員がそれなりに納得するような付箋の配置ができたらひとまず目標達成です*3。やはり付箋を崩さないようにホワイトボード、あるいは模造紙を一旦撤去し、付箋の内容を新しいものに清書していきます。大体、以下のような感じで書けるはずです。
1. 必須の知識・技能
1-1. 解像度について理解している
・入稿データに使用する画像の解像度に留意する
・媒体に応じた適切な解像度のデータを作成できる
......
1-2. 著作権に関する知識がある
......
2. 基本的な知識・技能
2-1. タイポグラフィに関する知識がある
2-2. 案件にふさわしいカラーパレットを作成できる
......
3. 習得が望ましい知識・技能
3-1. デッサン力がある
3-2. 3Dモデルを作成できる...
もし年齢や身長、視力等の身体的制限や業務遂行に必須の資格等があるならここでちょこちょこっと書き足します。この清書が完了したら、ここでひとまず職務記述書が完成です。
この後どうするの?
でき上がった職務記述書はグループウェアか社内Wiki、Githubの上などに置いておき、関係する全員がいつでもそれを参照し、必要な修正を行えるようにしておきます。職務記述書は生き物です。どんどん変更が加えられていくことを周知し、実際にガンガン変更しつつ運用していくことをお勧めします。
またせっかく作った物なので大いに活用していきましょう。具体的には
- 採用時に求める人材像の要望リストとして人事部に持っていく
- 新人研修の指針にする
- 勉強会のテーマを選ぶのに参照する
- 今後の部署内の評価基準や方向性を定める際の意見提案としてマネジメント層に見せる
といった使い方が考えられます。特にチームの外に対してなにか意見を通したい時に、ドキュメントになっているものがあると結構楽ですよ。アイデア次第で使い方は無限大だね!
幸か不幸か日本では雇用契約時の職務記述書が必須ではありません。だからこそ発生するデメリットもあるのですが、裏を返せばオレオレ職務記述書をチーム単位で作ってしまってもさしあたって大した問題にはならないということです。
「日本企業ではジョブ型雇用ではないから職務記述書の意義がない」という説もありますが、ジョブ型雇用ではなかったとしてもそれが各担当者のスキルや業務内容を可視化・共有しない理由にはならない、とわたしは思います。誰かの仕事を制限したり、あるいは誰かに仕事を押し付けたりするための職務記述書ではなくて、お互いがお互いの仕事に対する認識を共有し、よりスムーズなチームワークを進めるための道具として使っていっていただければと思います。
注意点
- ブレスト成功の鉄則は「時間厳守」です。どうしても議論が長引く場合は別途場外乱闘の場を設けることとし、なにがなんでも一旦閉めます。
- 「付箋が絶対」です。どんなに興味深い議論が口頭で行われたのだとしても、付箋に反映されていなければそのことは忘れましょう。
- 声の大きすぎるひとに注意します。他のメンバーが発言できていない場合には、適切に仕切りましょう。
ではでは、可能であれば社外にも公開して頂けることを期待しつつ、当ブログでは職務記述書の作成を心より応援しております。