そろそろ問題解決能力について一言いっておくか
ここで問われているのは、問題解決の能力であり、批判的思考法という学力である。こうした面では、日本は劣っていると日本国内的なイメージでは思われていたのだが、記事を読むとそうでもない。
調査結果についてまず極東ブログ様の元記事をお読み頂くとして、本稿ではそもそも問題解決能力とは何を指すか、PISAでは何を測定しているのかについてまとめる。
なお、日本の問題解決能力調査結果は以下の通りOECDによる公式のカントリーノートが出ている。
http://www.oecd.org/pisa/keyfindings/PISA-2012-PS-results-jpn-JAPAN.pdf
まずおさらい。
PISAとはOECDが15歳児を対象に、3年おきに実施している国際的な学習到達度調査だ。最新の実施は2012年で、我が国では15歳の高校1年生6,300人が参加した。
元々は数学的リテラシー、読解力、科学的リテラシーの3つについて調査していたが、2012年度はそれに加えて問題解決能力が追加された。したがって、問題解決能力については過去のデータは存在しない。
PISA2012による問題解決能力の定義
"… 解決の方法が直ぐには分からない問題状況を理解し、問題解決のために、認知的プロセスに関わろうとする個人の能力。そこには建設的で思慮深い一市民として、個人の可能性を実現するために、自ら進んで問題状況に関わろうとする意思も含まれる。"
問題解決能力の調査は、解決のための専門的知識の求められない問題(例えば、なじみのない自動券売機において、すべての条件を満たしながら一番よいチケットを買うといった問題)を生徒たちに尋ね、生徒の一般的な推論能力や問題解決に向けてのプロセスを組み立てる能力、それに進んで取り組む意思に焦点を合わせている。
一方、数学的リテラシー、読解力、科学的リテラシーに関するPISAの通常の調査に問題解決の課題が含まれる場合、これらの問題を解くには、問題解決能力に加えて、カリキュラムの知識が求められている。(改行は引用者による)
http://www.oecd.org/pisa/keyfindings/PISA-2012-PS-results-jpn-JAPAN.pdf
これだけでは抽象的すぎてわかりにくいだろうから、以下に測定に使用された問題例を掲載する。
日本語版の問題例は以下より引用した。
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/pisa2012_item_ps.pdf
実際の問題に挑戦したい方は下記リンクから。
http://cbasq.acer.edu.au/index.php?cmd=toProblemSolving
批判的思考力?問題解決能力?
上記のテストによって測定される能力が一般的な意味での「問題解決能力」に該当するかどうかはここでは問わない。でも、ぜひ多くのひとのご意見を聞いてみたいテーマだ。
結構多くのひとが「こんなのだとは思わなかった!」という感想を持つのではないだろうか?見慣れぬ自動販売機や地図、MP3プレイヤーの操作法など「いや……確かにそーゆーのも生活で直面する『問題』ではあるけれどさぁ……もっとこう……」
もっとこう?
もっとこう、何だったら「これぞ問題解決能力だ!」と思えるのか?
それは如何なるテストで測れる能力なのか?
少なくともこのPISAで測定された「問題解決能力」には、「批判的思考」の能力はほとんど含まれていない。批判的思考が何であるかについては諸定義があるが、大半がある意見や論説を批判的に検討する能力を指している。批判的思考力はどちらかというと「リテラシー」に近いものだ。
1930年代から認知科学領域においてその概念が検討され続け、定義について一応のコンセンサスが得られている批判的思考にくらべて、問題解決能力はより多くの分野で様々なアプローチから検討されているために、未だ共通の定義と言えるものが存在していないように見える。領域によって実効性のある「問題解決能力」の内実は異なるだろうから、個人的には問題解決能力の中に何を含めるかは今のところ各人の自由で結構だと思っている。
ただその自由度の高さの所為で、問題解決能力という言葉の持つ情報量が少なくなってしまっている。「問題解決能力」という言葉を使う際は、定義を測定方法込みで提示してほしいと常々思っている。
特に企業の採用担当者で「問題解決能力が高い人材が欲しい」などと言っているところは、具体的に何ができたら「問題解決能力が高い」と判定されるのか、一度検討してみるといいんじゃないだろうか。なにか御社は問題を抱えているから問題解決能力が高い人材が欲しいんだろう?その高い問題解決能力で解決してほしい御社の課題は一体なんなのか?
----結論: テストを書け、テストを。