エルの楽園

Twitterで垂れ流すには見苦しい長文を置きます。 あ、はてな女子です。

自殺予告を警察に通報したらどうなるか

自殺予告をオンライン上で見かけて、それを警察に通報したらどうなるか、自分の体験を覚書として記録しておく。もし自殺予告を通報するかどうかためらっているひとがいたら、一例として参考にしてもらえると嬉しい。

 

長文読んでいる余裕がないひとのためのまとめ:

●とりあえず以下の情報のうち上から順に分かるだけ用意しておけ。

  1. 自殺予告したひと(以下「対象者」)の本名、住所(大体でも構わない)
  2. 対象者の電話番号、メールアドレス
  3. 対象者のリアル知人の連絡先
  4. 対象者の生年月日
  5. 対象者の実家の住所・連絡先、所在地
  6. 対象者の学校/勤務先、およびその連絡先
  7. 対象者のTwitterFacebookmixi等のアカウント
  8. 対象者の家族構成
  9. そのほか、どんなことでも。

●自分と相手とはどんな関係なのか聞かれる。特にリアルで面識があるかどうかは重要。説明に困るならとりあえず「ネットの友人」でOK。

●自分の名前や住所、身分等を聞かれる。警察官が事情聴取のため自宅に来るか交番に呼び出されます。相手の住所が分からない場合、長丁場になると思う。

●事態が収束してからも警察から確認の電話がくることがある。

 

 

※これは執筆から大分間を空けた後の公開設定にしてあります。また本文中でもいくつかのフェイクを加えてあります。特定を避けるためです。もし万が一何の件か解ったとしても、特定はやめてください。

 

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自殺をしようとしていた女子学生がいた。仮にXちゃんと呼ぶ。わたしとXちゃんは学校も学年も違うけれど、Xちゃんの恋人が共通の知人だった縁で知り合って、Twitterでフォローしあい、たまに二人で遊びに行く仲だった。

Xちゃんはもともと精神的にもろいところがあった子だったけれど、恋人との関係が悪化して、どんどん様子がおかしくなっていった。毎日Twitterに「死にたい」と書き込み、わたしにも深夜に同様のメールや電話をしては「もう今日で死ぬ」と泣いていた。他のXちゃんの友人にも同様のメールや電話が行っていたらしい。精神薬の大量服用も繰り返していた。いわゆる「死ぬ死ぬ詐欺」状態が1ヶ月程度続いており、わたしを含めたXちゃんの知人は心配しながらも疲労していたと思う。

 

ある日の夜10時頃、XちゃんがTwitterに「今回は本気で死にます」と書き込み、証拠写真をアップロードした。またわたしの携帯にも「これから死にます、今までありがとう」とのメールが来た。わたしが彼女に電話すると「彼から完全に振られて、もう生きる意味がなくなった。これ以上生きるのがつらいし、本気で死ぬつもり」と言う。わたしがどんなになだめても思い直す様子はなく、わたしが「本気でやるなら警察に通報するからね?」と言うと「やれば?どうせわたしの家は解らないでしょう」と言って電話が切れた。

そこでこちらも本当に警察に通報しようと、まずは有害情報通報フォームを開いた。Twitter上で見かけた自殺予告だから、そこから通報するのが筋かなと思ったのだ。でもトップに「殺人・爆破・自殺予告など緊急に対応が必要な情報は、警察に110番通報してください」とあったから、110番通報することにした。

 

電話すると「事件ですか?事故ですか?」と聞かれる。「事件です。自殺予告を見たんですけれど」と言うと、まずわたし自身の情報、たとえば何処から電話しているのか、名前や簡単な住所を聞かれた。

それに答えると、次は「どこで自殺予告があったのか」を聞かれる。わたしはTwitterで自殺予告を見かけたこと、自殺しようとしている本人はリアルの知人で、メールや電話でも確認をしたこと、またXちゃんの本名や携帯の連絡先、身分等を話した。

「住所はわからないんですか?」と聞かれたので言葉に詰まった。わたしはXちゃんと知り合って日が浅く、彼女の自宅へ行ったことはなく、年賀状のやりとりなどもしたことがなかったので、住所はわからない。そう言うと「住所が分からないとどうにもならないんですけれどね」と何度か繰り返した後「大体でいいです、どこの所轄なのかわかるだけでも」と言われたので、以前雑談で耳に挟んだ彼女の自宅最寄り駅を伝えた。

すると「これから警察の者が詳しいお話を伺いにご自宅へ参りますが、よろしいですか?」と言われたので了承し、もう一度詳しい住所を説明した。夜遅かったけれどそんなことは言っていられない。「どんなことでもいいですから、Xさんに関わる情報を少しでも多く集めておいてもらえませんか」と言われて、電話はそこで切れた。

 

それから20分後くらいに地元の県警の警察官3人が自宅に来た。Xちゃんの住んでいる隣県ではなく、わたしの地元の県だ。詳しいお話を伺いたい、あがらせてもらうか、もしくは交番に来て欲しいということだ。ここから最寄の交番までは遠いので、自宅に上がってもらう。

3人の警察官に電話でも話した内容を再度伝え、PCを開いて問題の書き込みを見てもらったり、携帯に来たメールを見せたりした。住所はわからないのかと再度聞かれたので、わたしは知らないと伝える。彼女の恋人なら知っているかもしれないが、電話をしてもつながらない。すると「Xさんのご実家の県と、生年月日はわかりませんか?」と聞かれた。

実家の県は知っているが生年月日は知らない。そう伝えると警察官は「いいですか、Xさんの保護のためにはXさんの現住所がどうしても必要です。Xさんは自動車免許を取得されている可能性があります。それらの情報がわかればXさんの住所を割り出すことができます。携帯電話番号からの照会は日数がかかるし、Xさんの所属大学は夜間ですから問い合わせることができません。現時点では、免許の情報から割り出すのが一番早いです。なんとか手がかりはありませんか?」と説明した。

そこで正確な生年でないかもしれないが、彼女の学年や今までに聞いた情報から生年を類推した。また、これもまったく確実な情報ではないが、彼女のTwitter IDには日付ともとれる数字列が含まれており、おそらくこれなのではないかと警官に話した。結果的にはこれが正解だったらしく、免許情報からXちゃんの実家経由で彼女の住所を特定することとなる。これらの情報を話してから住所の特定までは90分程度だった。

 

警察官とそのような話をしていると、ちょうどXちゃん本人から携帯に電話がかかってきた。電話を取ると何か薬を服用しているらしく、テンションがいまいち普通ではない。

「本人から電話です」と短く伝えて電話を取る。とりあえず、Xちゃんと少しでも長く電話するのがわたしの務めだろう。わたしは隣の部屋へ移動し、Xちゃんと話をした。隣室では警察官たちが方々へ連絡を取り、特定を依頼している声がかすかに聞こえる。

Xちゃんは開口一番「警察呼んだって言うから待ってたのに、来ないじゃん」と言った。わたしは「本当に通報したから。今すぐ行くから。今行こうとしてお巡りさんが3人がかりで君の住所を特定しているところだから待ってて」と返事した。彼女は冗談だと思ったらしく軽く笑った。

そこから先はいつも通りの展開で、結婚まで考えていた恋人に振られてもう生きていけない、彼は絶対に離れないと言ったのに、もう誰も信用できないし、みんなわたしのことなんかどうだっていいと思っているんだ、と訴えるのをひたすら聞き、そんなことはない、みんな心配しているし死なれたら悲しい、と伝える。それにXちゃんはそんなことはない、みんなわたしを捨てるんだ。大体彼だって……と繰り返す。

Xちゃんとはこのところ連日のように深夜長電話をしていたから、いつも通りの会話を繰り返すだけで軽く70分は経った。疲労のためか、Xちゃんの様子は落ち着きはじめている。

 すると警察官の一人が隣室に来て、わたしに無言で「Xさんの住所が分かりそうです。彼女が自宅にいるかどうかを上手に確認してください」と書いたメモを見せた。Xちゃんの家は都市部にあり、周囲の音の様子から彼女が自宅にいることは確信していたが、一応確認のためにさりげなく話をする。

「とにかくさ、こんな雨の日に死ぬなんてよくないよ……そっちまだ降ってる?」

「外のことなんて知らないよ」

待機している警察官に「OK」と合図すると、警察官はどこかへ電話をかけた。

 

その直後、Xちゃんが「ちょっと待って、どこまで特定しているの?」と言い出した。わたしが「え?何のこと?」と返すと「今、親から着信があった。こんな時間に電話をかけてくるなんておかしい。もしかしてTwitterのフォロワーにクラスメイトがいたのかもしれない。学年名簿か何かを見て親に知らせたのかな」と言うので「え?でもXちゃん鍵アカだし、学校のリアル知り合いはフォローしてないんだよね?」と言うと「でもフェイクのアカで、本当はフォロワーにいたのかもしれない」と言う。

わたしが「でもXちゃんのフォロワーって数十人くらいだし、その可能性は低いと思う。それよりかは実家の方で誰かが危篤になったとか、そっちを疑ったら?」と言うと「それもそうかも、親に電話する」と言って電話を切った。

警察官たちに「今、Xさんのところに親御さんから電話があったそうです」と伝えると、彼らはすこしあわてた様子でどこかへ電話をかけ「親御さんがXさんに電話したそうです、もう踏み込みますか」と言い、わたしの方を振り返って「それでいいですか?」と聞いた。わたしが「その方がいいと思います、お願いします」と言うと、「通報者もそうしてくださいと言っています。お願いします」と電話に向かって伝え、電話を切った。

 

わたしが警察官たちにXさんは今のところ落ち着きを取り戻している、と話すと、ひとりが「結局、動機は何なんですか?」と聞いた。わたしが、彼女の交際相手の知人であること、最近Xちゃんは恋人とうまくいっておらず、ずっとわたしが相談に乗っていたこと、電話やメールでも彼に振られて生きていけないと再三言っていたことなどを伝えると、それらをメモしていた。

そこに警察官あてに電話がかかってきた。どうやらXちゃんを無事に保護したとの連絡で、肩の力が抜けた。警察官は電話の相手に「動機は恋愛トラブルのようです、彼氏と巧くいっていなかったらしいです」と短く伝え、電話を切った。

それからわたしの方に向き直り「すみませんが記録に残すので、あなたのことを教えてほしいのですが」と、名前・住所・生年月日・携帯の電話番号・職業を聞かれた。そしてどこかへ電話をかけ、Xちゃんを保護したこととわたしのプロフィールを伝え、「撤収します」と言った。そして警察官のひとりが「親御さんがあなたに直接お礼を言いたいと仰っています。ご連絡先をお伝えしてよろしいですか?」と聞いた。Xちゃんの今後が気になるので了承する。

そこで3人の警察官は立ち上がると「今回無事Xさんは保護されました。しかし警察では、Xさんに早まってはいけないと教え諭して帰すことしかできません。これから先Xさんにはご家族やご友人皆さんの支えが必要です。どうかこれからもXさんのことを支えてあげてください」と言った。わたしは「今回はありがとうございました」とお礼を述べ、玄関先まで3人を見送った。

 

翌日、Xちゃんのお母様から電話があった。Xちゃんを無事保護した、これからしばらくの間精神科に措置入院になるとのご連絡と、この度はありがとうございましたというお礼だった。わたしは良かったです、また何かありましたら是非知らせてください、と返事をした。

また、警察のサイバー犯罪対策室というところから電話があった。わたしの身元確認と昨日の簡単な経緯説明を求められた後、XちゃんのTwitterアカウントと自殺予告書き込みの詳しい内容、携帯のメールアドレスを知りたいと言う。怪訝に思いながらも答えると、こんな説明をしてくれた。

実はXちゃんのTwitter書き込みを見た複数のひとから同様の通報があり、中にはXちゃんのリアルの知り合いでないひとも含まれていた。それらの通報の元となった書き込みがすべて同一のものであり、かつXちゃん本人のものであるかどうかを確認するために、リアルの知人でかつXちゃんのTwitterアカウントを知っている人間の協力が必要だった。もしXちゃん以外の人物による書き込みであれば、別途対応が必要なところだった。今回あなたの証言によってこれらが確認できた、ご協力感謝します。資料にあなたの名前と連絡先を併せて記録しますが、よろしいでしょうか?

へぇなるほど、結構地味な作業をしているんだなと妙な関心をしながら了承した。

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これを書いているのは上記のことがあった翌日で、これは今からずっと未来に公開されるから、その時に本件がどのような事態になっているかは分からない。

この記録が通報をためらうひとの役に立てばと思う。何かご質問があればお気軽にお尋ねください。それと、これが公開される頃にはXちゃんが元気になってくれていることを祈る。