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エルの楽園

Twitterで垂れ流すには見苦しい長文を置きます。 あ、はてな女子です。

いいアイデアの諸条件

 Twitterで「いいアイデアを出すには枠にはまらない思考が求められるから、その分野に詳しくない方がいい」というテーゼをめぐる発言を見かけたので、思うところを書いてみる。

 

いいアイデアとはそもそもどのようにして判定されるか

 一見して「いいアイデア」だと思われるアイデアは、以下の項目によって判定される。

  1. 独創性
  2. シンプルさ
  3. 実現可能性
  4. コストパフォーマンス
  5. 影響力・適用可能範囲
  6. 直感的好ましさ

 まず「独創性」。これがいいアイデアとされる条件の40%くらいを占めているように思う。とにかく、変わっていて見慣れないものならこの項目はそれだけ高く評価される。そしてこの独創性を確保するために「枠にとらわれない思考」が要求され、それを実現するために「あまり業界知識がない方がいい」とされるのだが、結論から言うとこの命題は誤りだ。後述するが、知識の有無と枠にとらわれない思考ができるかどうかはあまり関係がないし、枠にとらわれない思考をコンスタントに生み出さなければいけない状況下だと、返って知識の無さが裏目に出てしまう。

 次に「シンプルさ」。簡潔さ、分かりやすさとしてもいい。そのアイデアについて短い説明を聞いただけで、聞き手の側にそれがどんなものであるか容易に想起されるようなものだ。このシンプルさはアイデアの足切り項目のように機能している。説明が長くなり、わかりにくいものはこの項目において足きりされ、その後の入念な検証が行われにくい。

 「実現可能性」と「コストパフォーマンス」は一見しただけでは解りにくい場合もあるが「低コストで今すぐにできそう!」なアイデアは高い評価を受ける傾向にある。また、少ないコストで多大なリターンがあるアイデアは後の検証にもよく耐え、実際に採用される確率が高まる。

 「適用可能範囲」が評価されるかどうかは分野によるが、「影響力」は大きい方が高い評価を受ける。長年悩んでいた困難を一瞬で根絶できるほどの強力なアイデアや、広く他分野に応用可能な汎用性の高いアイデアは一般によいアイデアとされる。垂直に展開する効果と水平に展開する効果といったところだろうか。

 アイデアの好ましさの話をしているのに直感的好ましさを持ち出すのはすこし気が引けるが、ここで挙げているのは理屈抜きの、反射的に感じる好ましさである。花は汚物より好ましいし、大量殺人のアイデアよりも難病治療に貢献するアイデアの方がより社会から好まれる。そのような好ましい外形を備えているかどうかにかかる項目である。

 

 これらの項目にはそれぞれに重みづけがあるものの、あるアイデアの「よさ」はこれらの総合得点によって評価される。独創性において抜きん出ていれば少々汎用性が低くても見逃されるかもしれないし、華々しさはなくても大きな影響力と高いコストパフォーマンスがあると一見してわかるものなら高く評価される。

 どれか一つだけ高い得点を得てもそれだけでいいアイデアとはされないし、またいくつかの項目に失点があったところでそれだけで悪いアイデアとされる訳でもない。

 

独創性の生み出し方

 単に知識がないだけのズブの素人がすぐに思いつくようなアイデアは、確かに良いアイデアと言えないものが多いように思う。人間の思考にはある程度のパターンが存在し、「思いつきやすい」アイデアというものが存在するからだ。そのようなものはとっくの昔に玄人衆によって検証済みの陳腐なアイデアであったりする。

 その分野の知識がない「素人」が卓越したアイデアを出す場合は、「素人」によって他分野の知識がその分野の知識と結合したときだ。その素人はその分野において「素人」なのかもしれないが、他の分野ではそこで培った大きな知見を持った玄人である場合がある。そのような人物が、ある分野での知識モデルを異なる分野に適用して発想した場合、独創性において卓越しつつも洗練されたシンプルさや地に足のついたコストパフォーマンスを併せ持つ優れたアイデアを出すことが可能になる。

 独創性はシステマティックな量産が可能だ。独創性の高いアイデアを生むいくつかの方法が開発されているが、「オズボーンのチェックリスト」「マッチ&ビルド」「マインド・マップ」「KJ法」「象限分割法」などがよく用いられているようだ。そしてこのいずれの方法を取るにしろ、その分野に関する充分な知識がないとアイデアが生み出せない。これらの方法は既存の知識を下地にし、それらを分類したり違う側面から分析したりして「思考の枠」を可視化し、それを踏み越えて独創的なアイデアを生む方法だからだ。

 

いいアイデア?悪いアイデア?

 アイデアの目的は問題解決にあるから、実のところ独創性はアイデアの「よさ」においてそう本質的な問題ではないのではないかとも思っている。実用上は独創性よりも影響力やコストパフォーマンスの方がはるかに重要だ。ただずっと解決されなかった問題をバッサリ解決するようなアイデアは、それまでに生まれた幾多のアイデアとは大きく異なって見えるものだろう。その場合、独創性は結果だ。

 アイデアは磨ける。たとえ独創性においてさえも。そして知識はアイデアを生む上で制約にはならない。むしろ網羅的な知識は素人の思いつきを凌駕する。もし素人がいいアイデアを出したように見えたとしたら、それは素人がいいアイデアを出したのではなく、他分野の見識を持つひとがアイデアを出したのだ。「いいアイデアにはそもそも何が必要か」「枠にはまらない発想とは具体的になんのことか」を詰めていくと、いいアイデアを出す手掛かりになるのではないだろうか。